流動的な都市の動きを捉える。GISによる都市空間データベースの構築

D2 中村景月


左:1920年代、中央:1960年代、右:2000年代

(図版出典:左から「空中より見たる京都市街図 写真」,京都市役所編,1929、国土地理院1961年空中写真、国土地理院2008年空中写真)


常に移り変わっていく都市空間。

その動きを過去から現在まで緻密に捉え、都市空間データベースを構築することによって、過去の歴史をふまえたうえで、現在の都市空間のありようを理解し、未来の都市のカタチを考えてゆく手がかりとしていきたい。


都市は動いている

 

皆さんは都市がどのように出来ていくとお考えでしょうか。基本的には道がひかれ、建物が建設され、集合していくことで、都市となっていくといえるでしょう。

そして、一度出来上がった都市は、生物の細胞が新陳代謝を繰り返して入れ替わっていくように、建物が建替わりながら、時には新たな道が造られながら、少しずつ変化していきます。

皆さんも普段から町を歩いていて、新しくマンションが建ったとか、お店ができたとか小さな変化を感じ取っていると思います。

そして、その小さな変化の背後には、周りの建物の建ち方や、土地の形からの影響があり、時には百年以上前の土地の境界線や地形から影響を受けていることもあります。

 

このように、周りの環境や過去からの影響を受けながら、一つ一つの建物が新陳代謝を繰り返すことで、都市は動いています。とりわけ日本の都市は、西洋の都市と比較すると建物の材料の伝統的な違い(西洋:石造、日本:木造)も影響して、新陳代謝が早く、都市の動きが流動的であると言われています。こうした傾向はスクラップアンドビルド(既存の建物をは壊して新築する)とも表現され、批判的に捉えられることも多いです。また、それによる変化の速度が速いため速さは日本の都市空間を捉えにくくしている要因の一つでもあります。

 

都市の新陳代謝

 

ところで、実際に私たちが着目して調査を行っているのは京都の東九条という地域で、場所は京都駅の南側一帯にあたります。

元々江戸時代には農村であった地域が、大正時代から都市化した場所です。

戦前から不良住宅が密集しはじめ、戦後とくに問題となりました。

住宅そのものの質が低かったことに加えて、密集して建てられていたため、火事のときには一気に燃え広がってしまう危険性があり、実際に何度も大きな被害を出した火事が生じました。

 

この地域は、先に挙げた不良住宅や火事以外にも現在に至るまでさまざまな問題を抱えてきたのですが、私たちがとくに問題と考えているのが、都市の新陳代謝のあり方です。

戦前から戦後にかけて密集化した不良住宅は、1990年代に整備が進むこととなります。

しかし、整備が終わった現在の状況は、密集した状況から一転して、整備によって不良住宅が取り除かれた空地がたくさん点在する、スポンジのような状況となっています。

また、商店などの生活に必要な施設も同時に失ってしまいました。この激変は、実際に地域にすむ住民の方たちにとって重大な問題です。地域に安定して居住するためには、都市の新陳代謝が適切に行われねばなりません。

 

 

GISを用いた都市空間の復元

GISとはgeographic information system(地理情報システム)の略。端的にいうと、一枚の紙地図では複雑になってしまって描けないような多種多様な情報(地形・地質・道路・建物・植生…etc.)を読み取ったり、過去との比較をしたり、さらには未来のシミュレーションに利用することのできるデータベースのような地図と思ってもらうとわかりやすいでしょう。

また、そのような地図を自分でつくったり、分析したりすることもでき、土地や施設の管理、都市計画の現場でも利用されています。

 

私たちの研究室では、先に述べた東九条地域における都市の新陳代謝のあり方を考えていくため、過去から現在までのさまざまな地図や図面、空中写真を収集して、過去の道路や土地、建物の形状を復元し、さらに土地の所有者や建物の利用などの調査結果をふまえた都市空間のデータベースを作成して、都市の動きをたどっています。

この取り組みは、直接的に現状の問題を解決することできませんが、地域の歴史をふまえ、町をつくっていくために最も重要な土台となります。


D2 中村 景月

 

1992年大阪府三島郡島本町生まれ。中学、高校は京都の学校に通い、2011年に京都大学工学部建築学科に入学。2015年には大学院進学、現在博士後期課程。大阪なのに京都盆地から離れられず、かれこれ10数年。研究分野は都市史。趣味は旅行(グーグルマップを含む)。好きなものは、場末や駅裏の飲み屋。